毎週土曜日更新を心がけておりますが、遅れる場合もございます

2007年09月29日

56

「最悪だ!ああもう、最低!」
誰に対するでもなく発せられた非難の声の後に、机が蹴飛ばされる音や、椅子が倒れる音、そこら辺にあったペットボトルや空き缶がカラカラと転がる音が続いた。
その音の方へ、メンバー達は決して目を向けないが、意識はやはりそちらに集中していた。
音の発生源は雄作だった。

雄作という男、ステージの上では典雅な雰囲気を発しているため、普段からも優雅で貴族的な生活を送っているに違いないと思っていたがとんでもない。
「ああ!チクショウ腹立つわぁ」
その日はライヴでの演奏が気に食わなかったらしく、終始机を蹴飛ばしていた。

「殿下、お帰りはどうなさいましょう?」
その日も雄作には1人の付き人が付いていた。
以前、WORLD DEFENSE LOVERSのワンマンライヴのときに付いていた男だった。
「うるせぇなぁ!さき帰ってろよバカヤロウ」
そういわれた男は、雄作の荷物をまとめだした。
一応荷物がまとまると、男はそれらを持って楽屋から出ようとした。
「おい!お前!なにやってんだよ?」
「は・・・?」
「ヴァイオリンだよヴァイオリン!なに勝手にさわってんだよ!」
「あ、これは、申し訳ございませんでした」
「それは置いていけよ自分で持つから!勝手なことしやがって。お前ホント殺すよ!?」
その瞬間、男の顔から一気に血の気が引いたのを、私は見逃さなかった。

付き人がヴァイオリン以外の荷物を持って楽屋を出たあと、私もそれに続いて楽屋を出た。
ライヴハウスを出たところから、トボトボと歩く付き人の後姿が見えたので、私は小走りで彼に追いつき、声を掛けた。
「ごくろうさん。大変だな」
「ああ、これはどうも」
「大丈夫か?顔が蒼いぞ?」
「・・・・」
「雄作に『殺すよ』といわれた瞬間一気に顔が青ざめたように見えたが」
「・・・・」
「・・・・まあ、言葉のアヤというヤツだろう。あまり気にするな」
「・・・・この国の人にはわからんのです。王族に死を宣告されることがどれほど怖ろしいことなのか・・・」
しばらく沈黙が続いたあと、男は一言、失礼しますといって足早に闇の中へ消えていった。

楽屋に戻ると雄作の機嫌はすでに直っているらしく、楽しそうにビールをあおっていた。
「おい雄作。貴様の付き人だが、殺すとか言われて随分ヘコんでおったぞ?」
「ええ?僕そんなこといいましたっけ?」
どうやら、やはり言葉のアヤだったようだ。


CDをリリースしてから数ヶ月が経った。
作品の評価はなかなかよかったが、それでも無名なインディーズバンドのCDが売れるほど、世情は甘くない。
相変わらず金のない私たちは、地道に活動するしかないのだが、それでも徐々にではあるが活動の幅を広げていかなくてはならない。
そこで、これまで大阪を中心に活動していたSIBERIAN-NEWSPAPERは、遂に東京へ進出することにした。

いよいよ東京での日取りも決まり、遠征に向けて準備をはじめたある日のこと、阿守の電話が鳴った。
ハジメからだった。
「すいません阿守さん!魔力が切れました・・・」
posted by ニヒリストHILAO at 10:59| Comment(2) | 組閣編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月22日

55

CDを作らないか?
そう言った中川氏を、メンバーは怪訝そうに見ていた。
「わかっとるわかっとる、皆まで言うな」
表情からメンバーの言わんとしているところを感じ取った中川氏は、まず一同の発言を制した。
「制作費は俺がなんとかするから、とにかく一枚CD作ってみぃひんか?」
「なんや、えらい景気のええ話しとるやないか」
と、そこにタッキーが姿を現した。
「あんたがカネ出すて、珍しいこともあるもんやな。どいう風の吹き回しや」
「いやな、SIBERIAN-NEWSPAPERはいまいちようわからんのや」
「なんや、ようわからんもんにカネ出すんかいな、あんたは」
「いやいや、SIBERIAN-NEWSPAPERがええのはわかんねん。でも、メンバーにしろ楽曲にしろ、判然とせぇへん部分が多いねや。せやから、ちょっとでも輪郭をはっきりさせるためにやな、CDを一枚作って欲しいんや」
「しかし、カネはどないするんや?」
「会社に出さしたらええがな」
このとき、中川氏はとある制作会社に勤めており、制作費は会社を説得してそこからださせるつもりだった。

スタジオの手配はタッキーが担当することになった。
そして、低予算で長時間使用させてくれる、好意的なスタジオの手配に成功し、いよいよCD製作に取り掛かろうかというときに、突然不幸が襲い掛かってきた。

まず、中川氏が制作会社を辞職した。
なんでも音楽製作とは関係のない部署への転属が決まってしまったので、勢いで辞めてしまったらしい。
では制作費はどうするのかというと
「俺が自腹でなんとかする!!」
ということだったが、予算の減額は避けられなかった。
さらに、タッキーが手配していたスタジオが急に使えなくなってしまった。
この時点でレコーディングは頓挫するかと思われたが、急遽阿守の知り合いのスタジオにお願いすることでなんとか製作を敢行出来た。
だが、予算の減額と急なスタジオの変更で、製作期間の大幅な削減は避けられなかった。

わけのわからないうちにレコーディングが始まった。
初日は私と阿守と山本さんでスタジオに向かった。
オペレーターのおっちゃんに挨拶をし、早速レコーディング開始。
あっという間に初日は終わってしまった。

そして2日目。
2日目は私1人でスタジオに向かった。
その日はひどい豪雨で、ビニール袋に詰め込んだ機材を担ぎながら、駅からスタジオまでの結構な距離を孤独に歩いた。
そしてスタジオに着くと、その日はオペレーターのおっちゃんしかいなかった。
2人きりでレコーディングを始め、しばらくして仕事を終えた阿守がやってきた。
で、その日録った分を少し手直しして、私のレコーディングは終わった。
この日以降、CDが完成するまで、私は製作に一切関わることがなかった。
ゲストに石濱を迎えると聞いていたので、久々に会えるかと思ったが、結局彼には会えずじまいだった。

今回のレコーディングは、なんだかわけのわからないうちに始まり、よくわからないまま終わり、気がつけばCDが出来上がっていたという感じだった。
自分のレコーディングを終えた後、私がぼやぼやとバイトをしている間、タッキーや阿守は相当苦労したらしく、あとで話を聞いてなんとも申し訳けなく思った。

とにかく、幾人かの心身を削る尽力のおかげで1stアルバム『Asiatic Spy』は完成した。
posted by ニヒリストHILAO at 09:16| Comment(1) | 組閣編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月15日

54

「阿守くん、バンド名どないかならんか?」
中川氏が突然そう言いだした。
「ラジオ局の連中がやなぁ、SOVIET-HIPPIESちう名前は怖くてよう流さん言いよんねや」
「流すも何も、僕らには流すものが何も無いよ」
「先の話や。この先なんぞ音源作ったとしてやな、なんぼ出来が良うても名前ではじかれる可能性があるんや」
「いい名前だと思うんだけどねぇ」
「そら俺も嫌いやないけどな、メディアいうんは思想に敏感なんや。ソビエトにしろヒッピーにしろ単体ではまぁなんとか目を瞑れる範囲らしいねんけど、その2つが合わさるとどないなことになるかわからんから、怖ぁてよう電波に乗せられへんらしいわ」
「ふうん・・・。なんだかやっかいなんだねぇ。まぁ、考えておくよ」

それから数週間が経った。
このころ私たちは、実はほとんど活動しておらず、ライヴは3ヶ月に一度あるかないかという程度だった。
練習も、ライヴ直前に雄作とハジメが来てからやるという具合だったので、メンバー同士が会わないのが当たり前だった。
真鍋と山本さんが加入したのはいいが、それ以降まだ一度も顔を合わせていない。

さて、そんなある日のこと、再び阿守と中川氏が会う機会が訪れた。
「阿守くん、バンド名のほうはどないや」
「いいのが出来たよ。『Darmstadt Idiots』っていうのはどうだい?」
「ダルムシュタット・イディオッツ?なんやえらい舌噛みそうな名前やな。意味は?」
「ダルムシュタットというのは地名で、電気音楽発祥の地といわれているんだよ」
「で、イディオッツは?」
「白痴」
「あかーん!!」
「いや、イディオッツには単にバカって意味もあるんだよ。電気音楽発祥の地を名前に持ちながら、アコースティック演奏ばかりているバカども、っていう洒落た意味を込めてるんだけど・・・」
「とにかくあかん。語呂が悪い。却下や却下。もっと考えて」
そこから阿守はいくつかの名前を考えたが、中川氏の興味を引くものはなかなか現れなかった。
それでも、阿守は思いつく限り単語を並べ立てた。
そして
「え〜と、じゃあ・・・シベリアン・・・・・・ウェザーリポート」
「お、それ悪ないぞ。うん・・・悪ない。でもなぁ・・・・・・どっかで聞いたことあるような気がせんでもないなぁ・・・・・・」
「そういえば昔『ウェザーリポート』っていうバンドがあったねぇ」
「ああ、そうか・・・惜しいなぁ」
「ん~、じゃあ、天気予報がだめならニュースでどうだい?シベリアン・ニュースリポート」
「お、近いぞそれ、なんか知らんけどあと一息ちゃうか?」
「そうかぁ・・・。じゃあ、シベリアン・・・ニュース・・・ペーパー・・・・・・?」
「!?・・・もっかい言うてみ?」
「シベリアン・ニュースペーパー?」
「いただき!!」
SOVIETO-HIPPIESはSIBERIAN-NEWSPAPERに生まれ変わった。

改名後最初のライヴは、新メンバー加入後最初のライヴでもあった。
結局ライヴ前日までに練習する暇がなく、当日にすこし練習することになったのだが、この時点でまだ顔を合わせていない者がいたため
「はじめまして」
が連呼されることになった。

まず真鍋と山本さんが初対面。
ハジメと雄作は真鍋、山本両氏と初対面。
タラは山本さんと初対面、という具合だった。

そして、なんとかその日のライヴは乗り切ることが出来たのだった。
ライヴ終了後、中川氏が私たちに声を掛けてきた。
「君ら、CD作らんか?」
posted by ニヒリストHILAO at 11:28| Comment(17) | 組閣編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月08日

53

その日阿守は特になにをするでもなく、家でごろごろしていた。
ベーシストを探さなくてはいけないのだが、といってどこかに目当ての人がいるわけではないので、なす術もなくただ時を過ごしているという具合だった。
果報は寝て待て、というが、何もせずに待つというのは自発的な行動を起こすよりしんどい場合があるらしい。
ギタリストがあっさり見つかったのだから、これ以上贅沢を言えばバチがあたる、と思ってはいるが、自然と電話に手が伸び、週に2〜3度はタッキーやタカハシンに連絡をとっている。
最近は露骨に迷惑がられているのだが、それでも何もせずに待つという行為に比べれば幾分かマシに思えるのだった。

その日も阿守は何となく電話を手に取った。
タッキーに連絡するか、タカハシンにするか、あるいはこのまま電話を置くか・・・。
電話を見つめながらそう思っていると、急に電話が鳴り出した。
阿守は驚いて電話を落としてしまったが、すぐに拾い上げた。
ディスプレイには【山本周作】と表示されていた。
デューク・ヤマモトこと山本さんからは、数ヶ月に一度連絡があった。
阿守はとりあえず電話に出た。
「どうも、山本です」
「お久しぶりです、どうしたんですか?」
「いや、特に用はないんですが、最近どないしてはるんかなぁと思って。たしか、バンド解散したんですよね?」
「ええ、でも新しいバンド始めましたよ」
「どないですか?」
「まぁ順調といえば順調ですかねぇ。ちょっとメンバーが足りてないんですが・・・」
山本さんと話しているうちに、阿守は記憶の中になにかひっかかるものを覚えた。
たしか、山本さんの家に何かあったような・・・・・・。
「確か、山本さんの家に、アレありましたよね」
「なんですか?」
「アレです。ええと・・・なんだったかなぁ・・・え〜・・・・・・ゴルゴ13・・・?」
「ええ、ありますよ」
「アレ面白いですね」
「面白いですね」
「画がちょっと苦手なんで、今まで避けてたんですが、読んでみると結構なもんでしたよ。・・・・・・他になにかありませんでした?」
「なんですかね・・・。風の大地ですか?」
「風の大地・・・なんですか?それ」
「ゴルフ漫画ですね」
「へええ。ゴルフって面白いんですか?」
「なかなか面白いですよ。今度打ちっぱなしでも行きますか?」
「打ちっぱなしですか・・・・・・。実はボク、むかし打ちっぱなしの球拾いやってたことがあって、あんまりいい思い出がないんですよねぇ」
「打つのと拾うのとでは違いまっせ。まぁ機会があればということで」
「そうですねぇ・・・・・・」
いやいや、違うだろう阿守孝夫。
もっとほかに重要なものがあっただろう?
思い出せ、山本さんの部屋の中を。
工房の隣の部屋に入ると、まず目に入ったのが無造作に積まれた漫画の山。
その中には【ゴルゴ13】と、確か【風の大地】もあったような・・・。
しかし重要なのはそこじゃない。
右手はすぐに壁。
左を見ればそこにはテレビとビデオデッキ、それにビデオテープが積まれている。
このビデオテープの中にはきっとイヤラシイものが混じっているに違いない。
ラベルには【ごっつええ感じ】と書かれているが、これはたぶん性的な意味でええ感じになるビデオなのだろう。

・・・視界の端に映っているコレはなんだ?
もう少し視線を左に動かせば、その正体がわかるはず・・・・・・!
「山本さん・・・コントラバス持ってませんでした?」
「ええ、持ってますよ」
「それ、ウチで弾きませんか?」
「いいですよ」
これまたあっさりベーシストが見つかった。

こうして、SIBERIAN-NEWSPAPERのパートは一応埋まったのだった。
posted by ニヒリストHILAO at 11:03| Comment(9) | 組閣編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月02日

52

阿守は堀江や難波に時々出没する。
どうやらヒマな時に南堀江KNAVEの店長タッキーや、難波ロケッツの店長タカハシン・コルテスなどを訪ねているらしい。
そこで何をやっているのかは知らないが、とにかく阿守は時々その辺りに現れる。

その日、阿守が何の目的でどこを訪れていたのか定かではないが、彼は考え事をしながら歩いていた。
考え事というのは、もちろん新メンバーのことだ。
どこかにいいギタリストはいないものか・・・・・・どこかにいいベーシストはいないものか・・・・・・。
などと考えながら歩いているうちに、ふと阿守は周りの喧騒に気付いた。

「アメリカ村じゃないか。いやな所に来てしまった」
大阪にはアメリカ村という、カジュアルな若者が集まる繁華街がある。
カジュアルよりもフォーマルを好む人間にとって、あまり居心地のいい場所ではなく、言うまでもなく阿守にはこの地域が似合わない。
とにかく難波か堀江に抜け出そうと、歩調を速めようとしたとき、阿守は何者かに呼び止められた。
「阿守くん!」
声のしたほうを見てみると、ラフなジャージ姿の男が両手にビニール袋を提げて、コンビニから出てきたところだった。
男はよたよたと阿守のほうに歩み寄ってきた。
「阿守くん」
「・・・真鍋?」
「いま休憩なんや。楽器もなし。どこいくんや?コレんとこか?」
と真鍋は小指を立てる。
「ち、違うよ」
「ええなぁ。まぁちょっと付き合えや」
しゃべりながら真鍋はコンビニ前の地べたに座り込んだ。
「何の用だい?」
「ワシ今そこのギタースクールに勤めとるんや」
「何の話だよ急に」
「まぁ阿守くん、座りぃな」
と、真鍋は自身の隣に阿守を促した。
「その【阿守くん】ていうのやめてくれないかな?気持ち悪いよ・・・」
阿守は渋々真鍋の隣にしゃがみ込んだ。
真鍋はニヤリと笑うと、ビニール袋から缶コーラを1本取り出して阿守に渡した。
阿守が呆れたような表情でそれを受け取ると、自分も袋から缶コーラを1本取り出し、ひとまずビニール袋を離して缶の蓋を開けた。
阿守もほぼ同時に缶の蓋を開け、コーラを一口すすった。
「聞いたで、バンド解散したらしいな」
「もう次のバンド始めてるよ」
「ほうか、えらい早いな。で、どないや?新しいバンドは」
「さぁ、どうなんだろうねぇ」
「自分のバンドやろ?どないもこないも自分次第やないけ」
「まぁ、1人でやってるわけじゃないしねぇ」
「ほな他のメンバーはどない言うとるんや?」
「さてねぇ。特になにも言ってこないし、何も訊いてこないよ。まぁバンド自体気に入ってくれてるようだけど・・・」
「そうかぁ。ウチの生徒なんかガンガンもの訊いてくるで?ま、ギタースクールやさかいな」
阿守はもう一口コーラを飲むと、立ち上がった。
「じゃ、もう行くよ」
「あいよ」

阿守は歩き始めると同意に思案を再開した。
どこかにいいギタリストはいないものか・・・・・・どこかにいいベーシストはいないものか・・・・・・どこかにいいギタリストは・・・・・・ギタリスト・・・・・・ギタリスト・・・・・・?

ギタリスト!!

振り返ると、真鍋はまだコンビニの前に座り込んでおり、間の抜けた表情でサンドウィッチをほおばっていた。
「真鍋!!」
「んあ?」
「ウチのバンドでギターを弾かないか!?」
「ええよ」

意外とあっさりギタリストが見つかった。
だが知り合いにコントラバス奏者はいそうにないので、こちらのほうはやはりてこずりそうだ。
posted by ニヒリストHILAO at 13:14| Comment(1) | 組閣編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月01日

遅延のお知らせ

数日中には更新します。
しばしお待ちを・・・!
posted by ニヒリストHILAO at 12:30| Comment(1) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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