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2006年11月11日

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その日はめずらしく誰も家に来ず、私は家で1人映画をみていた。
この時期、近所にレンタルビデオ店がオープンし、100円という破格でビデオを貸し出していたため、それまでほとんど映画を見たことのなかった私は、ここぞとばかりにビデオを借り漁っていた。
月に20〜30本ほど映画を見ていた私は、にわか映画通になっていた。

タラが来た。
しばらくは2人でどうでもいいような映画をみながらどうでもいいような話をしていたが、ふと、タラが神妙な顔つきになった。
「実はな・・・」
私はなんとなく嫌な予感を抱いていた。
「俺、自分のルーツ探るために、高校卒業したら南米に行こう思うとるんよ」
・・・ブルータス、お前もか。

いい加減うんざりしていた。
もし私の中にニヒリズムなるものが存在しなければ
「なんだ貴様ら!一緒に音楽家を目指すんじゃなかったのか!?」
などと暑苦しいことをわめき散らしていたかもしれないが、そんなことは私の中のニヒリズムが許さなかった。
といって、次々に湧き起こる友人達の突飛な行動を容易に看過できるほどに、私はニヒリストとして成熟しきれてはいないらしかった。
かわいそうだが、タラは私の中途半端なニヒリズムの犠牲になるのだった。

「南米というからにはメキシコか」
「いや、多分ブラジルかアルゼンチンかそのへん」
「馬鹿が。南米といえばメキシコだろうが。ブラジルやアルゼンチンが南米なわけあるか」
「え?ブラジルとかアルゼンチンとか、あのへん一帯が南米なんちゃうん?」
「なら訊くが、北米といえばなんだ?」
「・・・アメリカ?」
「だろう?一国に対応するのは一国だろうが。北米がアメリカなら南米はメキシコだ」
「ああ、そっか・・・・・・。じゃあブラジルは?」
「南豪だな。ちなみにアルゼンチンは北豪。西豪はチリで東豪は・・・なんだったかな。忘れた。とにかくあのへん一帯は豪州だから、豪州行きの飛行機を手配するといい」

もちろん嘘っぱちだ。
北米といえばカナダを含む場合もあるし、メキシコは中米、もちろんブラジルやアルゼンチンは南米だ。さらにいえば、ブラジルとアルゼンチンの位置関係も逆になっている。
私は元来、地理に疎い。
「ああ、あと、豪州は英語が通じないから、気をつけろよ。ポルトガル語でも勉強しておけ」

結局、音楽家を目指して故郷を離れるのは私1人となった。
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posted by ニヒリストHILAO at 17:01| Comment(2) | 死国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 いつも楽しく読ませて戴いております。はっきりいっておもしろすぎます(笑)将来タイミングを見計らって本出してください♪
Posted by ゆうき水銀 at 2006年11月12日 11:33
ありがとうございます。
髷団にも登場していただこうか迷ったのですが、どうも収集がつかなくなりそうなので今回はドラゴン探偵団のみにさせていただきました。
またいずれ、機会があれば・・・。
Posted by hilao at 2006年11月12日 12:03
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